8月21日(9時10分・牛窓港出港、17時10分室津港入港)

大王のひつぎ実験航海事業

航海日誌

8月21日(9時10分・牛窓港出港、17時10分室津港入港)

 牛窓湾前に浮かぶ小さな島の向こうにある小豆島を覆うように、南からの雲がびっしり寄せているはりついている。薄曇り。風、波とも牛窓湾は平穏だが、出港直前に「小豆島にあの雲が出ると播磨灘は荒れますよ」と寄港したヨットハーバーの人が言っていた。案の定、牛窓湾の東の瀬戸を抜けると高い波がうねっていた。

 古代船、現代船とも大揺れに揺れ、とても実験航海隊形をとれるような状態ではない。だがこのままいくと、室津港まで曳航隊形で行かなければならないことになる。しつこく実験航海をやりたい船団としては、思案の末、横風・横波を受ける沿岸沿いのコースを変更して、沖合の家島諸島に出て、島陰で実験航海隊形を試みることにした。家島は室津港の真南。前線に吹き込む強い南南東の風と高い波で。「海王」が木の葉のように揺れ、石棺丸太船は上へ下へとピッチング。各船では船酔い者続出。波をかぶる船へ不安、痛んだ船団員への心配。「なんでこんな思いまでして実験航海をやっているのだろう」と感じながら、ようやく室津の南約5マイルの西島にたどり着き、室津へ向けて1時間40分ほど「海王」+「有明」の漕行を繰り返した。

 昨日から台風の動向が気になっていたが、11号に続いて12号が発生、11号が関西直撃の構えを見せている。これまで「台風ゼロ」に恵まれたこの実験航海だが、終盤になって牙をむいてきた。夜の会議では、下川隊長以下船長さんたちが「台風が来ようとしているときは、なるべく早めにしっかり『船固め』が出来る港に入って台風通過を待つのが海の常識」と口々に意見表明。

 今日程度の海でも不安で胸が痛むほど古代船はもろい。古代なら砂浜に乗り上げて森に引き込み嵐を過ごしたのだろうが、現代のコンクリート岸壁の港ではそんなことはできない。次の次の寄港地である芦屋は幸いヨットハーバーで、小型船の係留・保護の機能が整っている。22、23日は「荒天予備日」。これまでは休養にあてていたが、台風本番で本来の荒天対策日とするため、予定を変更して明日、室津港を出港し、加古川・別府まで行って23日に芦屋までたどり着く計画に変更した。相手は、海で最大の脅威である台風。ここで古代船や石棺が壊れてしまっては、古代船団で石棺を大阪まで搬送するという実験航海の目的が果たせなくなる。この実験航海には、船団のみならず多くの人たちの思いが込められている。室津、加古川の人々のこと、寄港地担当者の苦労を考えると苦渋の決断となったが、「とにかく芦屋に急ごう」と船団は決した。

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