8月6日(6時50分・門司港出港、17時15分・三田尻中関港入港)

大王のひつぎ実験航海事業

航海日誌

8月6日(6時50分・門司港出港、17時15分・三田尻中関港入港)

 海の安全を守ることが使命の海上保安庁の指導で、狭い海峡に現代船が錯綜する難所・関門海峡は曳航隊形。だが、実現はしなかったものの現代船の通航さえなければ、古代船「海王」が今回復元した石棺積載丸太船「有明」(蓋)もしくは「火の国」(身)を曳いてこの海峡を渡ることはたやすいことがすでにこの実験航海で証明されている。それは航海初日の島原沖からの「潮流流し」の成功。あの海域では現代船の錯綜はなく規制されなかったのでそれがやれた。南下する速い潮流が瞬く間に口之津まで運んでくれ、口之津港前で静止することに苦労したほどだった。「この潮流にも乗せて、雄姿を見てもらいたかったな」。そう思いながら実験航海船団は早朝、関門橋下の漁師の小舟群から珍奇の視線を受けながら早鞆瀬戸を通り、瀬戸内海へ。

 瀬戸内海の女神が静かにほほえんでくれると思っていたら、8~10ⅿの東の風が吹き渡っていて波が高く丸太船は「鐘崎状態」。今日は「有明」にもしっかり締め帯をして中央の木蓋もし、「火の国」には石田カバーと安心だが「女神さんよ、そんなにいやがらせをしなくても・・・」とつい船上でブツブツ。航海計画の海上保安庁との事前協議で「15ⅿの風までは実験航海隊形をとれる」(船団)、「いや7、8ⅿ以上は無理」(保安庁)とせめぎ合いをし、間をとって10ⅿ規制で手を打ったのだが、この波では古代船の丸太船曳航は無理で実験航海隊形はとれない。古代の「大王のひつぎ」船団もそうであっただろう。保安庁さん、あんたが正しかったと一昨日その前を通り過ぎた七管本部の方を向いて一礼。

 三田尻港手前の波静かな大海湾に着いて、ようやく「海王」の能力試験。相変わらず風が強く、南東の向かい風でいくら漕いでも4.2ノット以上はでない。さらに「有明」がかしいでいるので木蓋を取って点検してみると意外やアカが20㎝も入っている。「木蓋をしているのになぜ」。風、波、原因不明の浸水。海の魔物があちこちから顔を出してきた。ほうほうの体で三田尻港に駆け込んだが、今度は引き潮で岸壁上と海面との落差が4ⅿほどもある。立ちはだかるその絶壁を縄ばしごでよじのぼって上陸。航海と思っていたが、ロッククライミングまでやらなければいけないとは。

 夜のミーティングで重要な意見がでた。4日の鐘崎~岩屋沖の波の打ち込みでの「火の国」の浸水状態は深刻だったらしく、大量のアカが波で片舷側に寄って「転覆するかと思った」ときまじめな宇野愼敏実行委幹事が言う。さらに「転覆しても締め帯をしているので船も石棺も大丈夫とあなたは思っていたかもしれないが、必死でアカ汲みしている者の気持ちがわかっていない。」

 言い訳はしたくない。だが、アカ汲み源平合戦などとたかをくくっていたのは事実。船団全体の状況、船団員の気持ちを把握できない指揮者は失格だ。そのために船団内にさざ波が立ってきた。漕ぎ手の学生さんの不満も高まっている。「魔物」が自分自身、そして船団内にも入り込んで来た。だが乗り越えなければいけない。乗り越えて、大阪をめざさなければ・・・。

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