8月5日(予備日 北九州市門司港レトロで一般公開)

大王のひつぎ実験航海事業

航海日誌

8月5日(予備日 北九州市門司港レトロで一般公開)

 今日は荒天予備日だがこれまで天候が順調なため休養日に。それでも朝から杉村船団長は洗濯の合間に古代船の岸壁公開に協力している人たちにあいさつ、大橋船長は船の配置換え、水中考古学のダイバーである横田物資班長は現代船の水中船底についた海藻のかき落とし、午後からは下川隊長ら各船長さんで明日の早朝出港の時は「開かずの門」であるレトロ岸壁の跳ね橋の定時開橋を利用して海峡側岸壁への係留移動とけっこう忙しい。

 私(副船団長・板橋)は、きのう玄界の荒波をもろにかぶって潮で真っ白くなった「有明」の石棺蓋に締め帯巻き。様々な角度から復元を試みた古代の石棺積載船がこの丸太船どおりだとすると、縄でぐるぐる巻きにして石棺を固定していたと思われる。実験航海では毎日の岸壁公開ごとにそれを外しまたまき直すことはとても出来ないので現代の布帯で代用しているが、見物に来る人の写真映りがいいように持参した粗い麻布をそれに巻いて古代風にしてみる。

 宿舎のホテルに帰ると今日の相部屋の本橋船長は下関の家に帰って自分一人。宇土出航以来毎日数人ずつの相部屋だったが久しぶりの一人の部屋から夜の関門海峡を眺めながら出航以来のことを振り返る。石棺文化研究会の考古学の人たちから頼まれて乗りだし、3年間みんなと準備に奔走したこの実験航海。だが、海の男たちに参加してもらって実際の航海に出航してみると「ロマン」など吹き飛んでしまい、慣れない古代船を操りながら海と格闘しているというのが実態だ。元気者の水産大学校生や経験豊かな船長さんたちも出港や入港、洋上での航海隊形の切り替えや漕ぎ手の移乗のたびに甲板上を走り回り、航海中は波や潮流との戦い。そして「海王」の力の限りの漕行。阿蘇ピンク石の原産地・宇土から大和の大王の墓まで、古代の人々がいかに苦労して波濤を越えて「大王のひつぎ」を運んだかが、実験航海船団の実際の海との格闘で身にしみてわかる。

 眺める海はロマンだが、乗り出す海は魔物だ。下川隊長以下の航海団、それを支える陸上支援班、そして寄港地の人々の声援。みんなの力と熱い思いと重い石棺を載せて、明日は目的地・大阪につながる瀬戸内海に入る。どんな魔物が待っていることだろう。

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